弱者はどっち

 蕎麦やラーメンを啜る音がデカイ方だ。それを自覚したのは大人になってから…偶然、同時期に複数人に指摘されてからだった。
 蕎麦に関して言えば、音を立てるのが正式な食い方らしいけど、それを認めているいないに関わらず、あの音を下品だ無作法だと感じる人も少なからずいるようである。俺も「その音、わざと?」なんて半ば皮肉混じりに問われたことが何度かある。
 そんなもん、わざとに決まっているのだ。
 もちろん下らない自意識、衆目を集めたいがための「わざと」などではない。単純に、その方が「美味いから」だ。
 麺にそばつゆ(スープ)をうまく絡めるには、つゆに浸けた麺をもそもそと悠長に口に運ぶより、一気に啜った方が効率が良い。かえしの塩気にじわじわと舌をヤられながら、また蕎麦の風味を段階的に、途切れ途切れに感じながら食うよりも、一気に食うことで、渾然一体となった鮮烈な風味を楽しむ方が、より「美味い」と感じるに決まっているのだ。
 もちろん微妙な差ではあるだろう。しかし音を立てて啜ってる人の多くは、その差を本能的にであれ、知っているのではないかと思うのである。
 まぁそれでも、少なくとも個人の食の楽しみ方などよりも、他者との関わりや、「いわゆる」一般的なマナーの方に重きを置いていて、啜る音を不快だと感じる人がいる以上、自重すべきは「迷惑かけている方」なんだろう。納得いかないが、仕方ない。
 音立て派に出来るのは、せいぜい「これが正式、そして美味い」と地味に、しかし声高に、啓蒙していくぐらいのもんである。いや、ぜってーウマいってその方が!(笑)