勇足

仕事場帰りに寄った蕎麦屋で隣に座った六十過ぎと思しき男性が、ザル蕎麦を啜りながら、「小さいことにくよくよするな!(リチャード・カールソン著)」を読んでいた。
幾つ齢を重ねても、何がしかの悩み事というのは絶えないのだな…と微笑ましく思う一方で、ほんの少しだけ、暗澹たる感情がチクリと胸を刺す。…終わらないのだ、悩みというものは決して。
店を出て、曇天模様の中ひとり自転車を漕いでいると、無性に可笑しさが込み上げた。徹夜明け独特の昂揚のせいもあろうが、かように若い自分が、見えもしない未来をさえ無意味に憂えること、それこそが「小さいこと」だと発見するに至る。
何を先回りしているのだ、と。