地下鉄とどこでもドア

 地下鉄が大好きだ、あの雰囲気がたまらないという人は果たしているのだろうか。まぁ少数派であれ、いるんだろうなぁ。
 おそらく多くの人がそうでないと勝手に推測するんだけど、俺も好きとは言えない派だ。数え切れないほど便利に利用して来たが、いまだにどうも「愛せない」。なぜだろうと考えてみた。
 すぐに思いつくのは、閉塞的、空気が悪い、こうこうと明かりは灯っているが何となく薄暗い…そんなイメージだ。どんなに近代的に、キレイに新築・改装されても拭えない、負の性質。こりゃもう仕方ない。
 さらに俺の中で大きな理由として、地上に出た時に感じる「突然ここに辿り着いた感」というのがあるなぁ、と思い至った。例えば地上を走る電車やバスであったら、どうやってそこに辿り着いたか、出発した場所からの位置関係はどうなのか、またどのくらいの距離感であるかなどが掴みやすいが、地下鉄では目から入るそれらの情報が極端に少ない。地上に出ることのある路線を除けば、全く無いとも言える。
 出発駅にもぐり、到着駅から地上に出た時、大袈裟に言えば、あたかも瞬間移動したかのような感じを受ける。移動した実感よりも、自分という駒をそこに置かれた(置いた)というような感覚の方が、少しばかり大きい。さんざん利用しておいて大層な言いようだが、好きになれない理由はそんな所にあるのだった。
 そう考えると、いつの日か「どこでもドア」を手に入れても、もちろん便利には使えど、実際にはあまり好きにはなれないのかも知れないとも思った。