傷

 くだらない話。
 住んでるマンションの駐車場でしばしば見かける、人慣れした感じの猫がいて、たまに気まぐれからチッチッと呼び寄せてナデナデしたりする。近頃は俺の顔も覚えたようで、俺としちゃ軽い信頼関係が築けたかななんて思っていたんだけど。
 先日、ナデ中に彼が「オウワフギリャーッ(活字化困難)」と突然、悪魔に豹変して。両手の爪でもって俺の右手首を思いっきり引っ掻きやがりました。痛ぇのなんの。んでその手首ウラオモテ数本に渡る筋状の傷跡が、あたかも、アレっす、いわゆる逡巡創(ためらい傷)みたいになっちゃってよ。
 コンビニで支払いのために右腕を差し出す際、ふと自分でそのことに気付いて軽く焦り、「いや、この傷はそういうことじゃないですよ、自傷じゃありませんよ、あー人生楽しい」みたいな雰囲気をそこはかとなく醸すにはどうしたらいいんだろうなどと、その後仕事場への道すがら考える自分は、とても健康だと思った。
 ほんとくだらねぇ。